SEIKO

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ウオッチデザイナー 久保 進一郎

グランドセイコー
スポーツコレクションの
デザインとは?

「世界最高峰の腕時計」を作り出すという決意から、1960年に誕生したグランドセイコー。以来、腕時計の原点と頂点を同時に究めるべく、その本質を高次元で追求し、世界最高級の品質を誇る腕時計の数々を、今日に渡って世に送り出してきた。「最高の普通」を作るというコンセプトのもと、長く愛される腕時計を目指し、ベーシックデザインにこだわり抜いたヘリテージコレクションが、グランドセイコーの中核を成す一方、「スポーツコレクション」は、1967年発売の「44GS」によって確立された独自のデザイン文法「セイコースタイル」をはじめとするブランドの遺伝子を受け継ぎながら、スポーツという新たな領域を舞台に、よりアクティブなシーンに適応するモデルを展開している。

2007年発売のスプリングドライブクロノグラフ「キャリバー9R86」を搭載した、グランドセイコー初のクロノグラフ(SBGC001)に始まり、ダイバーズウオッチの基本を忠実に守りつつ、グランドセイコーの美学を余すことなく凝縮したプロフェッショナルダイバーズウオッチや、ジルコニア・セラミックスとブライトチタンのハイブリッドケースが美しいセラミックスモデルなど、スポーツコレクションのデザインは、グランドセイコーが追い求める「正確で」「見やすく」「美しい」という腕時計の本質をより力強く表現している。

ウオッチデザイナー
久保 進一郎

1999年4月、セイコー(現セイコーホールディングス)入社。2001年セイコーウオッチに転籍。海外モデルや、スプリングドライブクロノグラフを搭載したスポーツウオッチ「セイコー イズル」など、国内モデルのデザインを手掛けたのち、2003年よりスポーツコレクションを中心にグランドセイコーのデザイン開発を担当。2005年に発売されたグランドセイコーとして初の回転ベゼル搭載モデルや2007年に発表されたグランドセイコー初のクロノグラフをはじめ、セラミックスモデル、ダイバーズ、GMTなど、さまざまなデザインを手掛けている。

グランドセイコー スポーツコレクションの系譜 ウオッチデザイナー 久保 進一郎 インタビュー

グランドセイコー初のスプリングドライブ搭載モデル、ダイバーズモデル、セラミックスモデルなど、スポーツコレクションにおける数々の史上初モデルに始まり、2018年、キャリバー9S誕生の20周年を記念して発売されたメカニカルGMTモデルまで、デザインを手掛けてきたウオッチデザイナー、久保進一郎。スポーツコレクションの真髄と、今後の展望を探るべく、久保に話を聞いた。

グランドセイコー初、世界で最も高精度なぜんまい駆動のクロノグラフ誕生

2007年、スプリングドライブクロノグラフ「キャリバー9R86」を搭載した、グランドセイコー初のクロノグラフ(SBGC001)が発売されました。まずはスプリングドライブの特徴について、教えてください。

スプリングドライブは、機械式時計の「ぜんまい」がほどける力によって生じるトルクを動力源としながら、水晶振動子の性質を利用し、精度を制御するクオーツ式時計の調速機構を備えた、セイコー独自の駆動機構です。つまり、スプリングドライブは、時計を動かすための大きな要素である「動力」と「制御システム」という、機械式時計とクオーツ式時計が、それぞれに持つ良さを融合させたメカニズムのため、ぜんまい駆動でありながら平均月差±15秒という高精度を可能にしています。

SBGC001デザインの特徴について、教えてください。

垂直クラッチ(ストップウオッチスタート前)

垂直クラッチ(ストップウオッチスタート時)

最たる特徴は、スプリングドライブの高い時計精度を保ちながら、ストップウオッチ機能も正確に動作させている点です。外装の話をする前に、まず機構の特徴についてお話したいと思います。ストップウオッチって、普段は止まっていて、必要な時にだけ、使いたい機能ですよね? スプリングドライブムーブメントでは、「垂直クラッチ方式」という方式を採用しています。

垂直クラッチ方式は、歯車同士のかみ合わせによるクラッチではなく、上下2枚の歯車間の面タッチによるクラッチなので、これまでの方式では回避できなかった「針飛び」が起こることなく、比類なき精度を誇るスプリングドライブを確実に動作させることができる、最も安定した精度を持つ方式です。また、クロノグラフを作動させる際、歯車の接触面が擦れることなく、一体となって動くので、磨耗がないという利点もあります。

ストップウオッチ用のプッシュボタンに目を引かれますね。

スプリングドライブクロノグラフ「キャリバー9R86」搭載モデル
(写真はSBGC001からダイヤルのグラドセイコーのロゴ位置を変更したSBGC201)

スタンダードなデザインなのに、このプッシュボタン、目立ちますよね。このモデルにおいて、クロノグラフを実現するために、この大きさは必然でした。さかのぼること半世紀以上、セイコーは1964年に開かれた国際的な大会の公式計時を務め、同大会の成功を支えると共に、その名が世界に広く知られる機会となりました。中でも、機械式の1/100秒計測ストップウオッチは、その正確さが審判員の方々に高く評価され、プッシュボタンの押し心地についても、非常に優れているという声が多く挙がりました。

SBGC001は、当時のセイコー技術陣が、全精力を傾けて開発したこのストップウオッチがベースになっています。プッシュボタンは、一旦、半押し状態にすることで、誤操作が少なく、正確なスタートを実現した「READY/STARTモード」を採用し、重すぎず軽すぎない、絶妙なクリック感を再現するために、プッシュボタンの径に至るまで、徹底的にこだわって決めています。また、必要のない時に誤作動しないように、「ねじロック」がついています。このように、機能面におけるさまざまな理由から、必然的に一定の大きさにする必要がありました。

その他、デザインでこだわった部分はありますか?

より優れた視認性を実現するために、ストップウオッチ針と目盛りの距離にこだわりました。どれだけ正確に計測できるストップウオッチでも、秒針の先が目盛りから遠いと、読み取りづらいものです。1秒単位の目盛りは、60分割されているので、わりと直感的に読み取れますが、1/5秒単位の細かい目盛りを読み取るのは、中々難しく、かつ目も疲れます。我々がさまざまな検証を行った中で、最も見やすい秒針の先端と目盛りの距離は、0.06ミリであることが分かりました。これを実現するために、「ダイヤルリング」のすり鉢状の斜面に目盛りを配置し、そこにストップウオッチ針があえてかかるデザインになっています。

一見すると、ストップウオッチ針は、いたって普通に目盛りを指しているように見えますが、実は、この普通さを実現するために、目には見えないところで、創意工夫がなされています。外装を組み立てておき、ムーブメントを入れ、裏ぶたを閉じる。これは、最もシンプルな腕時計の組み立て方です。しかし、このクロノグラフは、ムーブメントをリングに固定し、そのリングにダイヤルを固定し、その上にダイヤルリングを固定した後に、ようやく針を取りつけるというように、上から下から、各パーツをひとつずつ順番に組み立てていきます。なぜ、そんなに手間のかかる構造にしたかというと、ストップウオッチ針をダイヤルリングにしっかりとかけるために、また、その針と目盛りとのずれが生じないようにするためには不可欠なことだったからです。この構造は、このモデルを表す大きな特徴の一つと言えます。

ダイバーズウオッチの基本を守りつつ、こだわり抜かれた造形美
グランドセイコー初のダイバーズウオッチ、登場

2008年、スプリングドライブを搭載した、グランドセイコー初のダイバーズウオッチが発売されました。

実は、私がダイバーズウオッチのデザインを手掛けたのは、このモデルが初めてでした。まずは、自分で海に潜ってみなければ、何も始まらない。そう思い立ち、デザインを担当することが決まると、すぐさま沖縄の友人に電話をし、「今から遊びに行くから、よろしく!」とだけ伝えて、現地に向かいました(笑)。ダイビングの体験コースに申し込み、当時のセイコーのダイバーズウオッチを左右の腕につけて、潜ってみました。ダイバーズウオッチにとって、重要な要素とは何か、深度10mと30mでは、どう違って見えるのかなど、色々と考えたり、観察しながらの初体験でした。また、それとは別に、国産ダイバーズウオッチのパイオニアであるセイコーの技術者たちと共に、国立研究開発法人 海洋研究開発機構(JAMSTEC)におじゃまして、プロフェッショナルダイバーの経験を持つ方などにもお話を伺わせていただきました。

それらの経験は、デザインの構想において、どのように活かされたのですか?

セイコーは、1965年に国産初のダイバーズウオッチを発売して以来、独自の画期的な技術を搭載したモデルを発表し、世界中のプロフェッショナルダイバーや冒険家をはじめ、お客様からの絶大な信頼を得てきました。ゆえに、グランドセイコーとして、ダイバーズウオッチを打ち出すからには、ダイバーズウオッチの基本をすべて忠実に守りたいという想いが強くありました。

これを踏まえて、専門家の方々への取材や自身のダイビング体験などで得た知見をもとに、デザインを行う上で、心に留めるべき重要なポイントを見出すために、ダイバーズウオッチの最も大きな役割を確認しました。第一に、過酷な環境下において、正確に時間を読み取れること。その要となるのは、「分針」と「ベゼルの数字」であること。次に、ダイバーが、空気残量を把握するために、潜水開始からの経過時間を知らせることです。

また、深く潜れば潜るほど、頭がぼんやりしてくるため、その点も考慮する必要がありました。JAMSTECの方によると、ヘリウム酔いなどによって、思考がはっきりしない中、唯一、しっかりと違いが認識できるのは、数字や矢印などの複雑な形ではなく、「丸」、「三角」、「四角」等の基本図形。命を繋ぐダイバーズウオッチにおいて、数字を読む際に、まず時計そのものの方向をしっかりと認識する際に必要であることから、ダイバーズウオッチの基本の一つであるこの要素は、必ず盛り込まなければならないと再確認しました。グランドセイコーのモデルにおいて、これらをインデックスに採用しているのは、ダイバーズウオッチのみです。

デザインの特徴について、教えてください。

見た感じでは、ダイヤルに馴染むように平たく見えるインデックスですが、目を凝らしてみると、浮き立つように立体的な造形であることが、見て取れるかと思います。機能時計の代名詞であるダイバーズウオッチといえども、グランドセイコーで出すからには上質な質感を持たせたい、と考えました。そのためには厚さがしっかりとある美しいインデックスを採用したい。そのためには、「かしめ加工」という手法を用いて、面カットを施したインデックスをひとつずつダイヤルにあしらっているんですね。試行錯誤の末、卓越した職人たちの技術力と、徹底した品質管理によって、実現することができましたが、当初、このデザインを実現できる可能性は、限りなくゼロに近いものでした。

というのも、過酷な状況にも耐えうる信頼性が第一のダイバーズウオッチのダイヤルに、立体パーツをあしらうこと自体、許されていなかったんですね。もし、何かのアクシデントによって、立体パーツが取れてしまい、針に挟まって動かなくなったら、ダイバーの命取りになる可能性があります。また、グランドセイコーとして打ち出すダイバーズウオッチであるかぎり、仮に立体パーツを採用するとしても、一般的な製品と比較して遥かに確実な方法でなくてはなりません。職人たちに何度相談しても、「無理です、ダメです」の一点張りでしたが、ダイヤル上にインデックスを、頑丈かつ確実に植えられるように、太くしっかりとした足をかしめる加工を駆使したことで、グランドセイコー初のダイバーズウオッチは、無事に誕生しました。

グランドセイコーの美学が高貴な輝きを放つ、
プロフェッショナルダイバーズウオッチが今ここに

2017年、飽和潜水に対応した、グランドセイコー初のプロフェッショナルダイバーズウオッチが誕生しました。これまでの空気潜水仕様のダイバーズウオッチに比べて、重厚感がグッと増したように感じます。

先ほど登場した、2008年発売のダイバーズウオッチが、水深200mまでの空気潜水に対応した防水性能を備えているのに対し、世界に誇る10振動メカニカルムーブメントを搭載したこのモデルは、人間の活動限界を超えるラインとも言われる深度600mまでの飽和潜水に対応した圧倒的な気密性と水密性を備えています。また、通常、3時位置にあるりゅうずを4時位置に配置することで、ロープなどの引っ掛かりを防ぐなど、より本格的なプロフェッショナルダイバーズ仕様になっています。

デザイン面でこだわったのは、どのような点ですか?

実際に潜ってみて分かったことなのですが、面白いことに、海の中では、深く潜れば潜るほど、赤やオレンジや黄色といった色は飛んでいき、最後はモノクロームの世界になっていくんですね。黒いものはより濃く、白いものはより鮮やかに白く見えるという風に、色の見え方が、とても不思議な感じになってきます。この現象を利用して、海に潜れば潜るほど、ダイヤルやインデックス、分針など、ダイバーたちにとって不可欠なディテールだけが際立つという、プロフェッショナル向けの意匠を凝らすと共に、ケースには光が、より力強く輝くように、全体として、線よりも面を意識したデザインに少し切り替えています。このモデルは、「セイコースタイル」の基本理念に基づいた、グランドセイコーらしい燦然とした輝きと清廉な造形が、判読性や耐磁性にも優れたプロフェッショナルダイバーズウオッチと美しく融合した新たなダイバーズウオッチです。

長期メンテンス性にも優れているそうですね。

はい、ベゼルやりゅうずをはじめ、すべてのパーツは分解して、また元通りに組み立てることが可能です。比較的傷つきやすいケースやブレスレットも、単品で交換できますし、再研磨することによって、品格ある美しい輝きを取り戻すことができます。このモデルに限らず、グランドセイコーの腕時計は、長期に渡って高い品質を維持するためのメンテナンス性も考えた上で、デザインしているので、ムーブメントも外装も長くメンテナンスが可能です。

ジルコニア・セラミックス&ブライトチタンのハイブリッドケースが、ついに登場

2016年に発表されたグランドセイコー初のブラックセラミックス限定モデルに続き、2017年には、レギュラーモデルが発売されました。この素材の魅力は、どんなところにありますか?

グランドセイコーの腕時計は、傷のついた外装のパーツも、分解して磨き直しができるんです、というお話を先ほどしましたが、そもそも、傷がつきにくい素材で腕時計を作ることはできないだろうかと考えた時、超硬素材のセラミックスに着眼するようになりました。

セラミックスモデルに採用したのは、セラミックスの中でも、最も高い強度と靱性を持ち、表面の研磨についても優れた加工品質を誇る「ジルコニア・セラミックス」と呼ばれる美しい素材です。

ジルコニア・セラミックスとブライトチタンとのハイブリット構造にした理由について教えてください。

ブライトチタンは純チタンに比べてビッカーズ硬さが約1.5倍(当社製品比)で、引張強度なども強化された高機能チタンです。このブライトチタンをインナーケースに採用することで、優れた防水性能を確保し、ムーブメントを強固に守る構造となっています。
ブライトチタンケースでムーブメントを守りながら、時計を使用する中で最も傷がつきやすいベゼル部やかん足などにジルコニア・セラミックスを使用することで、強靭な外装と、軽くて心地良い装着感を兼ね備えたタイムピースが完成しました。

素材革新に力を注いだ一方で、ダイヤルの端まで届く長い針を使用して視認性を確保するなど、「正確で」「見やすく」「美しい」というグランドセイコーが追求する腕時計の本質も具現化したモデルです。

「グランドセイコーブルー」がまばゆく誘う、無限のブルー・ワールド メカニカルGMT「キャリバー9S 20周年記念限定モデル」

バーゼルワールド2018で発表した、初のブルーセラミックス「Mechanical Hi-Beat 36000 GMT キャリバー9S20周年記念限定モデル」のデザインの特徴について教えてください。

Grand Seiko Sport Collection
Mechanical Hi-Beat 36000 GMT キャリバー9S
20周年記念限定モデル

ケースをはじめ、ダイヤル、リング、インデックス、24時針(GMT針)に至るまで、ブランドカラーである「グランドセイコーブルー」で統一することで、ブランドの世界観を強調した、初めての「オールブルー」モデルです。セラミックスモデル史上初となる10振動ムーブメント「キャリバー9S86」を搭載し、先のブラックセラミックスモデルと同じく、ジルコニア・セラミックスとブライトチタンのハイブリッド構造を採用することで、堅牢性と快適な装着感を両立しています。強度と靭性に極めて優れたジルコニア・セラミックスを採用したアウターケースと、防水性をはじめ、耐傷性、耐食性など、さまざまな機能を持つブライトチタンを採用したインナーケースが、内蔵するムーブメントを強固に守ります。

素材の特性上、ジルコニア・セラミックスで、このブルーを具現化することは、極めて難しいとされていましたが、セラミックスモデルの誕生から3年の時を経て、キャリバー9S 20周年という記念すべき年に、実現することができました。稜線が美しく引き立つ多面体フォルムが成す、研ぎ澄まされたシャープな外装は、素材の奥深くまで光が入り込むという、ジルコニア・セラミックスならではの特性を最大限に活かすことで、複雑な色味の変化を見せることに成功しました。

「GS」と「9S」の文字を幾何学模様のように放射線状に型打ちしたダイヤルは、緻密な凹凸感を施してあり、光の加減や見る角度によって、躍動感のある、さまざまな表情を楽しむことができます。また、ブルーインデックスを採用したのは、このモデルが、グランドセイコー初です。ダイヤルに溶け込むカラーリングでありながら、ブルーのコーティングとルミブライトを施した立体的なインデックスは、視認性と品格のある輝きを兼ね備えた仕上がりになっています。

今後、スポーツコレクションのデザインは、どのように進化していくのでしょうか?

四半世紀以上に渡って、世界最高峰の精度と美しい輝きを兼ね備えた腕時計を作り上げてきたグランドセイコーが、領域を広げていくにあたって、スポーツコレクションは、エレガンスコレクションと共に誕生しました。今後も、これまで遵守してきた、グランドセイコーの核を守りつつ、デザイン面ではより力強い造形を模索していくと共に、機能面でも、堅牢性や防水性といった、スポーツというアクティブかつ特殊な環境下で必要とされる機能面との良きバランスを取れるデザインを目指していきたいですね。