確かな技術に裏打ちされた仕事の数々が、この時計を完成に導く。
匠の技の精度も、グランドセイコーの精度のひとつです。
時計職人がもっともこだわりを持つ工具がピンセットであり、大きく分けて二種類あり、ひげぜんまい調整用のひげピンと、その他の部品をつかむザラピンと呼ばれています。
ザラピンの先端は、確実に部品をつかめるよう面状に削られており、ズレがあれば部品はハジかれ、またはつぶれてしまいます。
力加減も難しく、持ち主は自分のクセや手指の疲労度に合わせてつかみ具合を調整します。他人のピンセットが決して使えないゆえんです。
ムーブメントを構成する一本一本のネジにはそれぞれ、ふさわしいドライバーが存在します。溝の長さや幅、そしてそれを手にする時計職人が持つ独特のクセに合うドライバーです。
新しいドライバーを手にした時計職人は、その刃をネジの溝に合わせて砥石で研いでいきます。溝に合わないドライバーはネジの外側に滑って周囲を傷つけ、また回されたネジは力のかかった部分が盛り上がり、時計職人のいう「笑った」状態になって美観と機能を損なうからなのです。
キズ見ほど「時計職人」を感じさせる道具はありません。しかし国内では徐々に使われなくなり、とくに若い時計職人たちにとっては、古くさいキズ見より高倍率の顕微鏡の方が正確かつ効率のよい仕事の伴侶となっています。
高性能の顕微鏡がなかった時代には、肉眼でできない作業 - ひげぜんまいの振れ取りなど - はすべてキズ見が使われていました。
ピンセット、ドライバー、ヤットコといかにもそれらしい工具が並ぶ中にあって異なる存在感を持つ注油器。しかも見てくれは医療用注射器そのままなので、なおさらその姿は工具箱の中で異彩を放っています。
時計職人たちは常時数種類の油を使い分け、粘度に合わせて注油器を用意します。
粘度が低くさらりとした油用にはあまり手を加えず、作業しやすいよう先端を多少曲げる程度。しかし粘度が高く固い油はそうはいきません。
ラックはアンクルの爪石の接着剤。機械式時計の生命・脱進機構を支える存在です。
ラックは熱を加えると溶け、冷やすと固まります。この性質を利用して、時計職人は暖められたラックで仮留めした爪石をガンギ車に合わせて調整、冷やして固定します。