現在、腕時計の風防(ダイヤルを守る透明な部品)には無機ガラスやサファイヤガラスを用いるのが主流で、接着したり、パッキンを間に挟みながら押し込むなどして金属やプラスティックのケースに固定している。一方、腕時計が手の届かない高級品から普及品になり始めた60年代頃、中央の膨らんだボンベ形状のアクリル製風防が非常に多く用いられた。当時風防とケースを固定するのに適した接着方法がなかったため、ボンベ形状に成形したアクリルに少し力をかけわずかに直径が小さくなったところをケースの開口部に入れ解放して固定、という手法がとられた。その際、全体が膨らんでいる方が縮めるときの圧力を支える力が大きい。ダイヤルや裏ぶた含め平らな面を作る方が難しかったという事情もあるが、外周の厚みを減らすことは腕時計にとって大事な価値観のひとつである「薄さ」表現に有効で、中央が高く、外側へいくに従って低くなるボンベ形状の部品は都合がよかった。

 なんの変哲もないこの丸い時計は、人の身近に時計が普及し始めた当時の形を取り入れることで、「時計らしさ」をなぞっているのである。