9Rスプリングドライブムーブメント

スプリングドライブとは、機械式時計とクオーツ式時計のメカニズムを融合することで、電池も充電池も搭載せず、クオーツ並の高精度“平均月差±15秒(日差±1秒相当)”を実現した、ハイブリット型の新機構です。

そのメカニズムは、機械式時計に用いられるぜんまいを動力源とし、ローターの回転運動を電気エネルギーに変換して、そのわずかな発電でクオーツ式時計に用いられるICと水晶振動子を駆動します。

安定した精度を実現する独自の調速機構「トライシンクロレギュレーター」は、秒針の正確な動きとともに、自然でなめらかな針の動きを生み出しています。

機械式時計を遥かに超える400点以上ものパーツが、すべて正確に動作するためには、パーツ自体の高精度化と、それらを組み上げる卓越した匠の技が不可欠でした。
セイコーが世界でも稀な、機械式とクオーツの両方を、パーツ製造から組立・調整まで一貫して行う“マニュファクチュール”であることは、9Rスプリングドライブの進化を後押ししています。

そして2004年の登場から僅か10年の間に、より複雑なメカニズム「GMT」「クロノグラフ」を搭載した新たなムーブメントが誕生。9Rスプリングドライブの勢いはとどまることを知りません。

誕生背景と開発思想

セイコーは誕生以来、正しい時をより多くの人に広めるために、精度追求を続けてきました。
中でもグランドセイコーは高級時計の名に相応しい「実用時計の最高峰」、
つまり高精度な機構を追求し続けるフラッグシップブランドとして、
その歴史を歩んできました。

1960年代、高精度な時計といえば、スイスブランドとされていた時代に、
セイコーはMade in Japanの匠の技で挑み、精度で世界の高級時計と肩を並べるまでになりました。

その後、たんす並みの大きさであったクオーツの機構を、腕時計のサイズまで小型化し、
世界で初めてクオーツ式腕時計を世に送り出しました。
高精度な時計をつくりたい、という強い思いが、
機械式時計では到達できない高精度を実現するクオーツ式時計の実用化を加速させました。

そんなセイコーにとって、電池も蓄電池も使わない自己完結型でありながら、
同時にクオーツ並の高精度を実現できるムーブメントは、新たな究極の実用時計であり、夢の機構でした。

20年以上もの開発期間を経て誕生したスプリングドライブは、グランドセイコーに搭載するにあたり、
現代人の運動量の減少や、週休2日制という生活パターンの変化に合わせて、
開発当初、想定していた以上の効率の良い自動巻き機構と72時間パワーリザーブの実現が不可欠でした。
「実用時計の最高峰」ブランドとしての威信をかけた挑戦でした。

数々の試行錯誤を経て、スプリングドライブという唯一無二の新機構を
完成させることができたのには、理由があります。
セイコーはメカニカルとクオーツの両方のムーブメントを部品製造から組立調整まで一貫して行っている、
世界でも稀なマニュファクチュールだからです。
先端技術と匠の技を融合した時計づくりが、スプリングドライブ実現に大きく貢献しています。

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グランドセイコーがスプリングドライブを搭載した理由

グランドセイコーの歴史は、よりよい実用時計を目指した、弛まざる努力と進化の歴史でもあります。
1960年に誕生し、60年代末には世界の頂点を機械式時計によって極め、10年以上にわたる休眠期間を経て
1988年にクオーツとして復活。
その後、1993年から発売された9F系によってクオーツの頂点をも極めました。
そして90年代末には、伝承される匠の技と先端技術を融合させた、機械式時計の復活も成し遂げました。

末永く満足してご使用いただける最高の実用時計を提供していきたいという熱い思いを、
グランドセイコーは常に持ち続けています。そのためには、
それまでの常識や固定観念にとらわれず、新しい考え方も積極的に取り入れていく。
グランドセイコーはそんな柔軟性と挑戦の精神に溢れたブランドでもあるのです。
スプリングドライブは、まさにそのようなグランドセイコーの思想を象徴する機構であるといえます。

極端に運動量が少ない現代人に合わせた、効率のよい自動巻き機構へのチャレンジ

グランドセイコーにスプリングドライブを搭載するにあたって、最大の課題は、効率の良い自動巻き機構と72時間パワーリザーブの実現でした。

自動巻き機構には、1959年に開発されたセイコー独自のマジック(爪)レバー方式を採用。これは生産性・メンテナンス性・耐久性に優れ、巻き上げ効率も 良い非常に信頼性の高い方式です。
しかしながら現代の日常生活での運動量を当てはめて、様々な検証をしてみると、開発当時そのままの設計では充分に巻き上がらない場合があることが判明しました。

現代の私たちは、歩いていてもデスクワークをしていても、生活の中でほとんど腕を振ることもなく、昔に比べて運動量が非常に少なくなっていたのです。

この事実を基に、現代人の平均的な運動量の1/2ほどの低い運動量でも確実に巻き上がる機構を、偏心ピンの形状や歯車の大きさを改良するなどエネルギー効率の見直しを行いました。結果、現代人の少ない運動量に合った、効率良い巻き上げ機構が誕生しました。

身につける人と密接に繋がっているスプリングドライブ

グランドセイコーに搭載するスプリングドライブを検討することは、「最高の実用時計」とは何かという
根本的な問題をグランドセイコーが問いかけ直す作業であったとも言えます。

グランドセイコーの考える「最高の実用時計」とは、時代の変化の波を受け止めながら常に進化していくべきである。
しかし、今までの伝統や技術的蓄積を捨てた、まったく新しい方向性への展開は、
グランドセイコーの望むものではありませんでした。

今までのグランドセイコーの歴史があったからこそ生まれた独自の機構を創りだす作業は、
20年以上の開発期間を経て、2004年、9Rスプリングドライブとして誕生しました。

人の動作をエネルギーとして利用するスプリングドライブは、身につける人と腕時計が密接に関係し合い、
つながっている時計といえます。
クオーツの正確さと機械式の味わいの二つの機構の良さを兼ね備え、人の生きていく歩みに合わせて、
ゆったりと時を刻んでいく革新的なムーブメント。
合理的でありながら、同時にゆったりした生活を嗜好する現代人のライフスタイルに寄り添う、
21世紀型の新機構です。

世界有数のマニュファクチュール セイコーが生んだ奇跡

セイコーは、パーツの製造から組立・調整までを一貫して自社で行う、世界有数のマニュファクチュールです。そしてそのことが、グランドセイコーの個性を作り上げている要因の一つであると言っても過言ではありません。

企画段階から「よりよい実用時計を」というひとつの意志の下に、各分野のプロフェッショナルが集まり、それぞれの意見を出し合いながら作り上げていく。誰か一人が リードするのではなく、開発チームすべてのスタッフが、コンセプトや思いをシェアして、連携しながらひとつの時計をつくり上げていく。

たとえば文字板の技術を応用して、回転錘を放射仕上げするといったことも、
マニュファクチュールだからこそ生まれた技術であるといえます。

そしてスプリングドライブという唯一無二の新機構が誕生したことも、
クオーツとメカニカルの両方のムーブメントを手がけるマニュファクチュールであるからこそ実現し得た奇跡であると言えます。

スプリングドライブのメカニズム

スプリングドライブは、機械式時計同様にぜんまいの解ける力を動力源としながら、調速機構はクオーツのメカニズムである水晶振動子からの正確な信号によって精度を制御しています。まさに両者の良いところを取り入れたハイブリッドエンジンがスプリングドライブです。

スプリングドライブは、
「高精度を実現した機械式時計」
であり、また、
「電池もモーターも使用しないクオーツ式時計」
であると言えます。

駆動源ぜんまいの力で針を駆動調速機構ぜんまいで発電水晶振動子磁力で減速回転数を維持
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メカとクオーツのハイブリッドなメカニズム

スプリングドライブは、ぜんまいの解ける力を動力源としながら、水晶振動子からの正確な信号によって精度を制御するセイコー独自の駆動機構で、電池やモーターに頼らない、自己完結型の駆動システムです。

トライシンクロレギュレーター※は、スプリングドライブの核となる3つの役割を担っています。
スプリングドライブでは、ぜんまいが解ける力を動力源とする一方、ICと水晶振動子がローターの回転数を測りながら、それが常に一定の回転数になるように、ローターに電磁ブレーキをかけ、針の動くスピードを一定になるよう制御しています。

ぜんまいによるローターの回転運動を電気エネルギーに変換し、そのわずかな電力でICと水晶振動子を駆動させます。このICと水晶振動子からの正確な信号に基づき、針の回転速度を一定に制御します。

針の動きは、細かく刻む機械式時計とも、1秒運針のクオーツ式時計とも違い、
時の流れのように自然に流れる「スイープ運針」です。

トライシンクロレギュレーターを構成するローター、ステータ、コイル、IC、水晶振動子などの
電子部品には、長年にわたるセイコーのクオーツ技術のノウハウが活かされています。

※トライシンクロレギュレーター
安定した精度を実現するセイコー独自の調速機構。
スプリングドライブでは、ゼンマイによるローターの回転運動を電気エネルギーに変換し、そのわずかな発電でICと水晶振動子を駆動する。
トライシンクロレギュレーターは、これらICと水晶振動子からの正確な信号に基づき、針の回転速度を一定に制御し、
秒針の正確な動きは勿論、自然でなめらかな針の動きを実現。
トライシンクロレギュレーターを構成するローター、ステータ、コイル、IC、水晶振動子などの電子部品には、
長年に渡るセイコーのクオーツ技術のノウハウが活かされている。

72時間パワーリザーブ実現へのチャレンジ

現代の私たちの生活パターンは、週休二日制が一般的です。
したがって週末の二日間に時計を外しておいても月曜日、
再び使う時には確実に動き続けている“72時間のパワーリザーブ”を
実現することは、開発開始当初からの目標でした。

単純に腕時計のサイズを大きくすれば持続時間を長くできます。
しかしながら日常使い続けていただくための適正なサイズ感も必要です。
結果、時計のサイズをそのままに72時間のパワーリザーブを実現するためには、
エネルギーを徹底して省力化することとなりました。

それには、香箱から動力を伝える輪列部の機械損失の低減が必要でした。そして
「歯車の磨きと歯車軸部のコーティング技術」「超低電力駆動IC」
「トライシンクロレギュレーターを支えるコイルの巻線技術」が、
パワーリザーブ72時間を実現させました。

これらの技術は、長い年月をかけてクオーツ機構を追求し、同時に機械式時計の技能をも培ってきた
セイコーだからこそ実現し得た独創的な工夫であり、この難題を解決する大きな原動力となりました。

歯車の磨きと歯車軸部のコーティング

歯車の歯は、機械式の伝統的な技法である“ぶなの木”を使用して磨き上げることで、伝達効率を高めています。同時に動力を伝達する輪列の一部には、摩擦係数の小さい膜をコーティングしました。

非常に細い歯車の軸へ密着強度を確保したまま、円周状に薄く均一に膜を施すことは、難易度の高い技術です。

伝統的な技法と最新の技術を組み合わせることで、摩擦係数及び磨耗の低減を実現し、伝達効率を画期的に向上させました。

LED電球のおよそ3億分の1「超低電力駆動IC」

長い開発期間をかけて実現したスプリングドライブですが、実用化に向け大きく貢献したのがICの技術革新でした。

セイコーはクオーツ式腕時計を世界で初めて開発しましたが、その後も低電力化の開発を継続し、キネティック、ソーラーなど低電力で駆動する腕時計のためのICを製造してきました。

そのノウハウを活かし、究極の低電力駆動ICを、スプリングドライブ用に開発しました。その消費電力はLED電球のおよそ3億分の1と、想像を絶する低電力であり、72時間という持続時間の達成に大きく貢献しています。

トライシンクロレギュレーターを支えるコイルの巻線技術

発電量は、ローターの回転スピード、磁石の強さ、コイル線の巻数の3つのかけ算で決まります。

9R65スプリングドライブには、独自の巻線技術によって、正確かつ緻密に25,000回という膨大な巻数を実現したコイル線を採用。効率のよい発電を支えています。

スプリングドライブクロノグラフ 9R86

世界で最も高精度なぜんまい駆動のクロノグラフ

1969年、セイコーは世界で初めて動力伝達に「垂直クラッチ方式」を搭載した自動巻クロノグラフを発売しました。

38年後の2007年、自らの歴史を超え、スプリングドライブを基本時計に用いた、世界で最も精度の高いぜんまい駆動のクロノグラフ“スプリングドライブクロノグラフ”を誕生させました。

自動巻スプリングドライブの開発当初から、すでにクロノグラフの開発も構想されていました。実用時計の最高峰を目指すグランドセイコーにとって、時を確実に計測できるクロノグラフの実現は、いわば使命でもありました。

基本時計をスプリングドライブにすれば、機械式クロノグラフでありながら、従来の機構では実現できなかった平均月差±15秒(日差±1秒相当)という高精度の実現が可能であると考えたのです。

スプリングドライブにクロノグラフ機能が加わることによって、時計としての複雑さはさらに増しました。それは単にクロノグラフ機能がプラスされた、というだけではありませんでした。

クロノグラフとしての“最高の実用性”を追い求めた結果、スプリングドライブ自体の基本性能も高める必要が出てきました。スプリングドライブの時計精度を保ちながら、クロノグラフ機能も正確に動作させ、さらに最大巻上時の持続時間(パワーリザーブ)も72時間(3日間)を約束する。
そこまで実現するからこそ、グランドセイコーがクロノグラフを作る意味があるのです。

グランドセイコー Cal.9R86 スプリングドライブクロノグラフ

高精度を実現した技術

時刻を表示するだけではなく、経過時間の計測もできる「クロノグラフ」。
機械式クロノグラフは、時刻表示用の歯車から、動力伝達機構(クラッチ)によって、動力と精度をわけてもらっています。そのため必然的にその精度も、時刻を表示させている部分の精度と同じになります。クロノグラフの機構にも、その高精度を犠牲にしないものが絶対に必要でした。

そのため動力伝達方式には、計測開始時の秒針飛びがない「垂直クラッチ方式」を採用しました。そしてクラッチばねの材質や形状を変更することで、さらなる精度追求が行われました。

確実な操作を実現する「ピラーホイール方式」

高精度を実現するために、作動方式には確実な操作を実現する「ピラーホイール方式」を採用しました。
「ピラーホイール方式」はプッシュボタンを押すときの指の力が動作に影響を与え難く、クラッチやレバー類に無駄なトルクがかからないためです。

計測開始時の針飛びのない「垂直クラッチ方式」

動力伝達方式には計測開始時の針飛びがない「垂直クラッチ方式」を採用しました。
「垂直クラッチ方式」は、1969年の61系キャリバーから採用している機構であり、輪列構造の新たな工夫を加えることによって、クロノグラフの長時間駆動(最大巻上時約72時間)も実現しました。

400点を超える部品を組み上げる職人技

スプリングドライブクロノグラフは、400点以上もの部品点数で構成されています。

クオーツ式時計の部品点数は、100点にも満たないのが一般的です。
機械式時計の部品点数であっても、200から300点(複雑なクロノグラフにおいても)です。

機械式時計とクオーツ式時計の理想的な融合のメカニズムであるスプリングドライブですが、その組立工程は複雑を極めます。部品の点数が多ければ多いほど、組立工程は複雑になっていくのです。

また時計の設計図は1ミリ単位ではなく1/100ミリ単位です。最終的に部品を1/100ミリ単位で加工・調整していくのは、ロボットでもコンピューターでもなく、人間の目と手なのです。卓越した匠の技を持つセイコーの時計職人に、
すべては委ねられています。

機能性をデザインに

実用時計の最高峰を目指すグランドセイコーにおいては、読み取りやすさと正確な計測、
そして普遍的なデザインであることが求められます。

判読性を重視して右側にクロノグラフ、表示左側に時刻表示を配置

右半分に30分積算計と12時間積算計を縦に配列、左半分に基本時計の小秒針とパワーリザーブ表示を配置しました。
この独特なレイアウトは、明確に判読できるための配慮です。
役割を明快にし、実用に徹したデザインに仕上げました。

5分の1秒間隔の目盛りと0.15ミリへの思い

5分の1秒間隔で記された目盛とクロノグラフ秒針の先端との間には、0.15ミリの距離があります。この距離が長すぎても、また短すぎても(つまりクロノグラフ秒針と目盛りとが重なってしまっても)読み取りし難くなってしまいます。
最も読み取りやすい距離について繰り返しシミュレーションを行い、そこで割り出されたのが0.15ミリという数字なのです。0.15ミリへのこだわりが、高い視認性に繋がっていまます 。

グランドセイコーらしさを徹底的に追求したデザイン

グランドセイコーらしさを体現する、重厚感のある太くて長い針を正確に回すために、デザインのみならずムーブメントの作り込みにおいても幾度もの試行錯誤が繰り返されました。
見やすい針の太さや文字板のデザインを徹底的に追求した結果、この堂々たる顔が完成しました。

9Rスプリングドライブムーブメント比較

ムーブメント 精度 持続時間
(最大巻上時)
石数 24時針
(GMT)※1
ストップウオッチ
機能
手巻スプリングドライブ
8Days
9R01
平均月差±10秒
(日差±0.5秒相当)
約192時間(約8日) 56    
自動巻スプリングドライブ
クロノグラフGMT
9R96(手巻つき)
平均月差±10秒
(日差±0.5秒相当)
約72時間(約3日) 50
30分計 12時間計
自動巻スプリングドライブ
GMT
9R16(手巻つき)
平均月差±10秒
(日差±0.5秒相当)
約72時間(約3日) 30  
自動巻スプリングドライブ
9R65(手巻つき)
平均月差±15秒
(日差±1秒相当)
約72時間(約3日) 30    
自動巻スプリングドライブ
クロノグラフ
9R84(手巻つき)
平均月差±15秒
(日差±1秒相当)
約72時間(約3日) 41  
30分計 12時間計
自動巻スプリングドライブ
GMT
9R66(手巻つき)
平均月差±15秒
(日差±1秒相当)
約72時間(約3日) 30  
自動巻スプリングドライブ
クロノグラフGMT
9R86(手巻つき)
平均月差±15秒
(日差±1秒相当)
約72時間(約3日) 50
30分計 12時間計
※1 GMT(Greenwich mean time)機能とは、時針と24時針がそれぞれ別の時刻を示すことで、時差のあるふたつのタイムゾーンの時刻を表示できる機能。SBGE015と001はさらに回転ベゼルを回すことで、24時針で3つ目のタイムゾーンの時刻も読み取ることができます。