9Sメカニカルムーブメント

「毎日使える機械式時計の最高峰を作りたかった」

スイス・クロノメーター優秀規格と同等の基準を設定したグランドセイコーの初代モデル。
その精神はこの9Sメカニカルムーブメントに継承されています。
数字の上だけでの高精度ではなく、日常生活のなかで高精度を維持できるように、さまざまな最新技術が投入されています。

200〜300点ものパーツから構成される機械式時計は、パーツ精度がムーブメント精度を大きく左右します。そこでパーツ製造時の精度を最大限に高めるための先端技術MEMS※が採用されました。

しかし、どんなにパーツ精度を上げても、それらを組み込んだだけでは作動しません。職人の手によって、パーツは一つひとつ丁寧に磨き上げられ、1/1000mm単位の調整が行われて、初めてグランドセイコーの厳しい精度基準をクリアしたクオリティーに到達するのです。

まさに1世紀以上の歴史を持つマニュファクチュール。
セイコーの技術の結晶ともいえるメカニカルムーブメント。
9Sメカニカルムーブメントは、実用的な機械式時計の可能性に挑戦し続けます。

※MEMS:MicroElectroMechanicalSystems技術の略で、半導体の製造技術を応用し、電気と機械を融合したデバイス

グランドセイコーメカニカル〜復活と深化に挑む男達〜

9Sメカニカルの進化系 9S85 メカニカルハイビート36000

メカニカルハイビート36000を生み出したスピリット

9S85

グランドセイコーは “伝統“を継承するとともに、常に”進化”を遂げてきました。
“伝統”と“進化”。一見矛盾するこの2つが共存することは、実用時計の最高峰を追求し続けるブランドとしての宿命でもあります。

1968年、自動巻の61GS、手巻の45GS、女性用の19GSと、10振動(ハイビート36000)のムーブメントを搭載したモデルを次々と世に送り出し、当時、世界最高レベルの高精度を達成しました。

1968年発売 国産初の自動巻10振動〈61GS〉

41年後の2009年、再び登場した10振動キャリバー9S85は、
単に過去の10振動ムーブメントの復活ではありませんでした。

精度を司る動力ぜんまい、ひげぜんまい、脱進機(がんぎ車、アンクル)すべてを一新し、
9Sメカニカルを代表する高精度ムーブメントとして、生まれ変わりました。

進化した10振動キャリバー9S85

10振動とは、機械式時計の精度を決める心臓部である「てんぷ」が、1秒間に10回振動することを意味しています。
1秒間に10回の振動は、1時間に換算すると36,000回の振動に値するため、ハイビート36,000の呼称が付せられています。

一般的なムーブメントは、6振動(毎時21,600振動)又は8振動(毎時28,800振動)であることから、10振動がいかに振動数の多いムーブメントであるかが分かります。

「てんぷ」は振り子のような規則正しい往復回転運動を繰り返すことによって、ぜんまいの解ける速度を一定に制御(調速)しており、振動数が多いほど外乱の影響を受けにくく、より安定した往復回転運動となるため、高精度を実現することが可能になります。

時計理論上は分かっていても、実際の製造は困難を極めました。

課題となったのは、持続時間と耐久性です。
振動数の多い「てんぷ」は、ぜんまいの動力もまた多く必要とします。
巻き上げたぜんまいを実用上十分な時間、持続させるためには、大きなトルクが必要でした。
また「てんぷ」に対して往復回転運動をするための力を与え続けるとともに、
「てんぷ」からの規則正しい振動で輪列を制御する「脱進機(がんぎ車、アンクル)」の
耐久性の向上も必要不可欠でした。

これらの課題をクリアするためには、主要部品の素材開発や、各部品の強度と精度のより一層の向上が必須でした。

基本性能を向上させる新開発の「ひげぜんまい」

機械式時計の精度の要であるひげぜんまいもまた、動力ぜんまい同様、50年以上にわたる開発、製造のノウハウが蓄積されています。長い年月の間で培われた経験と知識をもとに、財団法人 電気磁気材料研究所との共同開発によって、約5年の歳月をかけて新素材を開発しました。
新開発のひげぜんまいは、従来の素材に比べて耐衝撃性、耐磁性が向上しており、日常お使いいただく中で、より安定した高精度を確保できるようになりました。

最先端の製造技術により見直された「脱進機(がんぎ車、アンクル)」

10振動へと高振動化するには、耐久性の確保が鍵となりました。
最先端の製造技術を駆使して、脱進機(がんぎ車、アンクル)を製造。部品の寸法精度の向上、部品表面の滑さの向上、さらに部品の軽量化を図り、がんぎ車の形状を潤滑油を保持しやすいように工夫することによって、高速振動でありながら、従来と同等の耐久性を実現しました。

毎時36,000振動の高速振動に必要なトルクと実用的な持続時間を実現した「動力ぜんまい」

セイコーは動力ぜんまいを50年以上にわたって自社で開発、製造しています。その経験と、東北大学 金属材料研究所の指導のもと、約6年の歳月を経て新素材を開発しました。
この新素材の動力ぜんまいは、従来よりばね力が向上しています。また形状も改良することによって、8振動と比較して約1.5倍のトルクが必要とされる10振動を実現しながら、最大巻上時約55時間持続も可能にしました。

キャリバー9S85をベースに新たなステージへ メカニカルハイビート36000 GMT

GMT機能を付加した10振動のキャリバー9S86

10振動のキャリバー9S85の、外乱に強く携帯時に安定した精度を実現した性能はそのままに、GMT機能を付加した新キャリバー9S86。

メカニカルハイビート36000に24時表示機能(GMT機能)を付加し、実用性を向上させた高付加価値メカニカルムーブメントです。

GMTとは世界標準時(Greenwich Mean Time)の略称で、時針、分針、秒針の3本に加わる4本目の24時針(GMT 針)を持つ時計です。 GMTは24時針と24時間目盛りによって、時差が発生する地域の時間帯を、一つの時計で表示することが可能です。

りゅうずを1段引くことで、秒針を止めずに時針のみを調整できるため、高精度なハイビート36000が約束する“正確な時”が損なわれることはありません。

実用時計の最高峰を目指して進化し続ける9S65 メカニズムと高精度を実現した技術

機械式時計のメカニズム。それは腕時計の原点です。

機械式時計のメカニズムは、針で時刻を表示するスタイルの時計が生み出されて以来、変わることなく受け継がれています。ねじを巻くことでぜんまいが動くという、味わいや温かみが感じられる機構で、エコロジーで自己完結型の駆動システムです。

機械式時計には電池やモーターは一切ありません。正確に「時」を刻むために、一定のスピードでぜんまいが解け、歯車が同じスピードで回転し続けることで正確に時を刻んでおり、「てんぷ」や「がんぎ車」「アンクル」で構成される調速・脱進機構が、精度調整に重要な役割を果たしています。

「てんぷ」が振り子のような規則正しい往復回転運動を繰り返すことによって、ぜんまいの解ける速度を一定に制御(調速)するとともに、ぜんまいが一気に解けてしまわないように、長時間かけて解ける(脱進)よう制御します。

その一定の動きが、時針、分針、秒針がついた歯車に伝わり、
正しい時を知らせます。

進化した機械工学と職人技の融合による精度向上

精度には“静的精度”と“動的精度”の2つがあり、腕時計を置いた状態で測定される
“静的精度”に比べて、身につけた状態での“動的精度”の方が、通常、精度が落ちます。

グランドセイコーは、日常生活において、時計を気づかって過ごさなくても
高精度を維持できる「実用的な機械式時計」を目指しました。

日常使いの中で安定的な高精度を実現するためには、複雑な機構よりも
シンプルな構造の方が好ましい。
ただし、そのためにはすべての部品の加工精度を、徹底的に高める必要がありました。

パーツの製造精度を上げるための新技術の投入と、仕上がったパーツを
一つひとつ手作業で調整し、繊細なムーブメントを組み上げていく職人技とが融合することで、
グランドセイコーが独自に設定した高い精度基準を満たす9Sメカニカルムーブメントが完成します。

精緻なパーツ製造を可能にした先端技術MEMS

高精度なパーツ製造のために、素材を形成する先端技術であるMEMSを採用しました。MEMSとは、MicroElectroMechanicalSystemsの略で、半導体の製造技術を応用し、機械装置に電子工学を融合した技術の微小化の進展によって、細部の形状まで設計通りの精密なパーツ製造を可能にする技術です。

素材をめっきの手段で何層にも積み上げて形成し、工学的な方法で設計図の基盤の上に転写。そのパターン通りにニッケルを厚くめっきして立体的な
パーツをつくることで、高精度な仕上がりが可能になります。

キャリバー9S65における最大の進化は、この技術を用いて加工された
高精度な脱進機のガンギ車、アンクルです。
ニッケル製で、潤滑油を保持しやすく、耐久性が向上した新形状に仕上げたことで、
軽量化が実現し、同時に駆動効率も改善されました。

歯磨きの名人

部品の加工精度についてひとつ例をあげれば、それは歯車。
限られた力を効率よく伝達するために、深さ100分の6ミリの溝を、職人がひとつひとつ丁寧に磨き上げます。
気の遠くなるような話しですが、これが少しでも狂うと、実用的な高精度に仕上げることはできません。

精度を支える「柱」

機械式時計の精度を左右する決定的な部分はてんぷ(調速機構)の中にある「てん輪」。
その重量は0.000001g単位で調整されるほどの繊細な部品で、この回転が安定するかどうかで、精度が決まります。
問題は熱による膨張で支柱が伸びると「てん輪」が微妙に変形してしまうことです。
これを解決するために、通常2本か3本の支柱を使用するところを、9Sメカニカルは4本に増やしました。部品をつくる手間が格段に増えることは承知の上でした。

匠の手によってのみ調整可能な「ひげぜんまい」

グランドセイコーは手作りの時計です。200〜300点ものパーツを組み立てることができるのは、限られた熟練の職人のみです。中でも精度の要である「ひげぜんまい」の調整は、匠の技と経験が必要不可欠です。

ひげぜんまいは、らせん状の美しい曲線の形をしています。その厚さは僅か1ミリの数十分の一程度。このミクロン単位の渦巻きの隙間にピンセットを入れて調整し、精度を追い込んでいくのは、機械ではなく人間の手なのです。
てん輪に取り付けられるひげぜんまいの調整は、職人が先の尖った手作りのピンセットで、てん輪が正確に動くために必要とされるひげぜんまいの美しい曲線を整えていきます。

その力加減はあまりに繊細なため、機械ではできない。最後はやっぱり人の手の感覚の方が、機械よりも優れているのだと職人たちは語ります。
職人の天性の勘と経験に支えられて、高精度なムーブメントは完成するのです。

職人たちはこう言います。「ここで手を抜いたらグランドセイコーにはならない」と。

数値で測るのではなく、限られた熟練の職人の目と手、そして長年の経験 から得る感覚だけが頼りです。わずか1/1000mmの世界を凝視する鋭い眼差しと、ハイテクを凌駕する指先が、グランドセイコーの精度を左右します。それは機械では決して到達し得ない、超越した人間の感覚値であり、長年の経験を持つ者のみが辿り着ける究極の世界です。

ひげぜんまいひとつひとつと向き合い、個性を感じ取り、それぞれに合わせて手を加えなければ、組み立てたときにグランドセイコーとしての完成品にならない。 微細な調整を繰り返し、ひげぜんまいの形が波紋のごとく美しく広がるとき、職人たちは初めて小さく微笑む。それは工業製品と呼ぶより、アートと呼ぶにふさわしい時計の心臓部が出来上がる瞬間です。

道具へのこだわり

匠の技を支えるのは道具です。
職人たちは自らのクセや手指の疲労度に合わせて道具を調整して使用しています。
他人の道具では決して同じ精度を出せないのです。

9Sメカニカルの精度基準

初代グランドセイコーが登場したのは1960年。高級腕時計=スイス製として一般的に認知されていた時代に、グランドセイコーはスイスの高級腕時計に挑戦する国産最高級腕時計として誕生しました。

初代グランドセイコーは、当時のスイス・クロノメーター優秀規格と同等の社内検定を行い、これに合格したものだけが、世に送り出されました。その検定をクリアした証が文字板に配された「Chronometer(クロノメーター)」の文字です。

しかし、現在のグランドセイコーには「Chronometer」の文字はありません。

その理由は「新GS規格」にあります。
1998年、機械式グランドセイコーの復活を機に「新GS規格」がつくられました。
それは初代グランドセイコーが挑んだスイス・クロノメーター優秀規格よりも
遥かに高い精度基準で、現在も様々な厳しいテストをクリアしたムーブメントだけが、
グランドセイコーの心臓部として時を刻むことを許されるのです。

さらに詳しく知る

新GS規格

規格 新GS規格 スイス・クロノメーター優秀規格
制定年 1998年 1951年
平均日差 +5.0〜-3.0秒/日 +6.0〜-4.0秒/日
平均日較差 1.8秒/日以下 2.0秒/日以下
最大日較差 4.0秒/日以下 5.0秒/日以下
垂直水平差 +8.0〜-6.0秒/日 +8.0〜-6.0秒/日
最大姿勢偏差 8.0秒/日以下 10.0秒/日以下
第一温度係数 ±0.5秒/日/℃ ±0.6秒/日/℃
第二温度係数 ±0.5秒/日/℃ ±0.6秒/日/℃
復元差 ±5.0秒/日 ±5.0秒/日
検定姿勢数 6姿勢 5姿勢
検定温度 8,23,38℃ 8,23,38℃
検定日数 17日間 15日間

グランドセイコー規格はその数値の厳しさに、12時上方向を加えた「6姿勢差」、携帯着用時に近い温度範囲での「第二温度係数」の基準が設けられていることがポイントです。これは、いたずらに数字のみを追うのではなく、お使いいただく際の環境を真摯に理解した上で時計づくりを行う、という考え方に基づくものです。

※グランドセイコー規格は、ケース組込み前のムーブメント単体の状態で、人工的に一定に管理された様々な条件下で計測された精度(静的精度)を前提に管理されています。
※実際にお客さまがお使いになる際の精度(携帯精度)は、ご使用環境によって変わるものであるため、グランドセイコー規格検定での実測値とは異なります。
※グランドセイコーの携帯精度は、日差+10〜−1秒(9S65、9S64)、日差+8〜−1秒(9S86、9S85)が目安です。

17日間の検定試験

9Sメカニカルムーブメントは、ケースに組み込む前のムーブメント単体の状態で、厳格な規格に基づく独自の検定試験を17日間にわたって受けなくてはなりません。
6方向の姿勢差、および3段階の温度で設定したさまざまな条件下において、時間の進み、遅れ(日差)の数値が基準内に収まらない限り、世に出ることはありません。
すべての試験をクリアしたものだけが、皆様のお手元に届けられるのです。

9Sメカニカルムーブメント比較

ムーブメント 静的精度※1 携帯精度 持続時間
(最大巻上時)
石数 24時針
(GMT)※2
メカニカル
ハイビート36000 GMT
9S86(自動巻、手巻つき)
平均日差+5〜-3秒 日差+8〜-1秒 約55時間 37
メカニカル
ハイビート36000
9S85(自動巻、手巻つき)
平均日差+5〜-3秒 日差+8〜-1秒 約55時間 37  
メカニカル
自動巻3DAYS GMT
9S66(自動巻、手巻つき)
平均日差+5〜-3秒 日差+10〜-1秒 約72時間(約3日) 35
メカニカル
自動巻3DAYS
9S65(自動巻、手巻つき)
平均日差+5〜-3秒 日差+10〜-1秒 約72時間(約3日) 35  
手巻メカニカル
9S64(手巻)
平均日差+5〜-3秒 日差+10〜-1秒 約72時間(約3日) 24  
メカニカル自動巻3針
9S61(手巻つき)
平均日差+5〜-3秒 日差+10〜-1秒 約72時間(約3日) 33  
※1 グランドセイコー独自の規格に基づき、工場出荷前にムーブメント単体の状態で、6姿勢差・3温度差の条件下で測定した場合の精度です。また、メカニカルモデルの特性上、ご使用になる条件(携帯時間、温度、腕の動き、強いショックや振動)によっては、前記の精度の範囲を超える場合があります。
※2 GMT(Greenwich mean time)機能とは、時針と24時針がそれぞれ別の時刻を示すことで、時差のあるふたつのタイムゾーンの時刻を表示できる機能。